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「万引き家族」をみて考えた家族の愛情について

「万引き家族」を見てきました。

これを犯罪助長ととらえる向きもあるみたいですが,どう解釈したらそうなるのかと。
映画を見ずにタイトルだけに反応しているか,読解力が決定的に足りないかのどちらかなのでしょう。
スイミーの音読からやり直した方がいいレベルかと思います。
これが犯罪助長になるのだったら,「アウトレイジ」とか救いようがないですよね。

見始めたときの感想

本題です。

汚い家にいかにも犯罪者予備軍のような人々がぎっしり詰まって生きています。

警察が通報を受けて行く家ってこんな感じの汚い家がとても多く,そのあまりのリアルさに昔を思い出してげぼが出そうになるくらい驚きました。

映画なので臭いはしませんが,映像を見ているだけであのほこりの混じったすえたような独特の臭いまでよみがえってきました。

映像からにおいが出てくる体験は初めてで,大変驚きました。

疑似家族

家では5人(祖母初枝,父治,母信代,息子祥太,母の妹亜紀)が暮らしていますが,実は本当の家族ではありません。
一見して彼らを結びつけているのは金のように見えます。
事実,家族の生活は樹木希林の演じる老婆初枝の年金が頼り。
そのためだけに古い狭っ苦しい家に何人も暮らしているのかと最初は思います。

話は少しズレるのですが,この5人の役者さんがよかった。
特に印象的だったのが信代役の安藤サクラさんです。
私は彼女を見たのはこの作品が初めてなのですが,役どころは小汚いオバチャンです。
風俗嬢上がりで現在はクリーニング工場のパートをしながらこういう汚い家に住んでいるといえば想像がつくかと。
その汚いところやえげつないところ,優しいところも自在に表現しています。

また夫とのセックスシーンもよかったですね。
熱っ苦しい中,性欲がデロデロ出てくるような感じで,まるで漫画ゴラクのエロ劇画を見ているような気分になるのですが,なんとも言えず艶めかしいです。

ただ,ちょっと人を詰め込みすぎかなという印象も受けました。
特に亜紀については存在が微妙な感じで消化不良に感じました。

新たな家族

話を戻します。

そんな中,寒い夜に家の外へ追い出されている女の子,ゆりが新たな家族として迎え入れられます。
もちろんゆりも他人ですし普通に考えると誘拐なのですが,ゆりが虐待されていたことが分かると,皆本当の家族のように受け入れていきます。
このあたりも彼らの優しさであり弱さです。

疑似家族だけど・・・

彼らも日雇いや風俗などで働こうとはしていますが,まともに生活できるようなレベルではありません。
そのためか万引きなど盗みをすることにも平気で,あっけらかんとしています。それなりに生を謳歌し,その関係は本当の家族よりも強いのではないかと思わされます。

そして,新たに家族に加わったゆりがよい潤滑油となり,疑似家族の絆はより強いものへと変わっていきます。
家族で海水浴へ行ったのはその絆が最も強くなった瞬間でした。

この映画はドロドロとした部分の多い映画ですが,海水浴のシーンだけは一転しておとぎ話のようで,この世のものではないような感じを受けました。

公式サイトから

家族の崩壊

しかしそんなおとぎ話のような世界は長く続かず,初枝の死によって崩壊が始まります。
そして決定打となったのは「常識」と祥太の「常識への目覚め」でした。

彼らがやったこと,初枝の死体を自分たちで埋葬したこと,本当の家族でもないのに一緒に暮らしていること,子供を万引きに使っていること,ゆりを匿っていること等々,一般常識や法律に照らし合わせると許されることではありません。

そういった「常識」に祥太が目覚めてしまったことがきっかけとなり,警察を初めとする世間の「常識」により家族はバラバラにされてしまいます。

疑似家族から本当の家族に

終盤,治は祥太に,祥太を見捨てて逃げようとしたことを謝ります。
祥太もまた,自分もわざと捕まるようなことをして家族を崩壊に導いたのだと治に謝ります。

二人はそうやってお互いの弱さを受け入れあい,擬似的な家族から本当の家族になったのではないでしょうか。

弱さと優しさと

この映画に出てくる人たちはみんな弱いです。
どうしてこんなことしてるんだろうというくらい弱い。
でもその一方で優しいです。

優しくて弱いからこそお互いを裏切りつつも,それを許しあい,他人同士でありながら本当の家族のような関係が築けたのではないでしょうか。

翻ってみて本当の家族でこのような関係が築けている人たちがどらくらいいるでしょうか。
この映画にも出てくるゆりも本当の家族の元に帰りますが,幸せなようには見えません。

しかしゆりは成長します。
ラストシーン,ゆりは家の外廊下で一人で遊んでいます。
しかし以前とは少し様子が違い,一人で遊ぶ姿にも何かしらの余裕が見られます。
心によりどころができた,とでもいうのでしょうか。

最後に彼女が手すりから外を見るところで映画は終わります。
彼女がそこに見たものはなんだったのでしょうか。
彼らに迎えにきてほしいという願いが彼女をそうさせたのでしょうか。

是枝監督作品も初めて見たのですが,いろいろなシーンが考えさせられるように作ってあり,見応えがありました。
家族とは,愛情とはを考えることのできる非常に感慨深い映画でした。

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