加藤陽子氏の「それでも,日本人は『戦争』を選んだ」を読みました。
本書は日清戦争から太平洋戦争までの流れが書かれたものです。
中高生に向けられた講義形式なので読みやすいです。
「歴史に学べ」も実は危ない
「歴史に学べ」とはよく言われる言葉です。
私もそのとおりだと思っていました。
しかしこの本を読むと,下手に学ぶとかえって危ないこともあることが分かります。
本書での例は
- ロシア革命を担った人たちがフランス革命の帰結を知っていたために,ナポレオン的な性質のあるトロツキーを排除してスターリンを選んだ
- アメリカが第一次大戦で「休戦の条件を敵国と話し合ってはならない」と学んでしまったため,第二次大戦で無条件降伏にこだわって犠牲者が増えた
- 第二次大戦後にアメリカが中国の共産主義化を止められず莫大な市場を失ってしまったことを教訓として,ベトナム戦争へ介入した
などが挙げられています。
いずれも自分にとって都合のよい解釈のみを学んでしまった結果と筆者は断じています。
別の言葉でいえば,ある人物や歴史的事実は後の歴史に影響を与えているともいえます。
しかし,一つの事実が数十年後にどのような影響を与えていくのかを予測するのは困難です。
先ほどの例を見ても,その後の歴史を知っているから失敗だったと言えますが,それを知らなければ誤っていると即座には言えないようなものです。
歴史の流れはすぐには変えられない
またこの本を読んで改めて思ったのは,歴史は大きな流れであるということ。
例えば太平洋戦争それだけを取り上げると,理解できないことがたくさんあります。
その前の日中戦争や満州事変,もっといえば日清戦争なども影響しているからです。
筆者は歴史を学ぶときには流れのほかにそういった歴史の中の当事者の視点が必要だといいます。
太平洋戦争の場合,今から振り返ればなんであんな超大国と戦争になったのか理解するのは難しいですが,当時の流れを理解しつつ当事者の視点に立てば,あながち荒唐無稽なことでもないことが本書を読めば分かります。
そうだとはいえ,やはり見通しが甘かったことには変わりはないのですが。
そして最終的に太平洋戦争へ突入して破滅したのは,なにもごく少数の決定によるものではないということです。
明治が始まった時からの小さな一つ一つの失敗が積み重なって大きな破滅への流れになっているということが本書を読めばわかります。
大きな流れになってしまった後は,一個人がいくら正論をあげて戦争に反対してもそれを止めることはできなかったでしょう。
私たちはなにをすべきか?
そう考えてみると,今私たちが生きている時代も決して安寧な時代とは言えないわけです。
平和な時代へ進んでいるのかもしれませんし,ひょっとしたら破滅に向かって少しずつ舵を切っているのかもしれません。
だとすればどうしたらよいのでしょう。
必要なこと
それは一つ一つの小さな失敗を,直せるうちにコツコツと正していくことしかないのではないでしょうか。
そのためには
- 何が失敗なのか理解すること
- そういったことを議論できる土壌があること
が必要だと感じます。
まず学ぶこと
失敗かどうかを理解するためには,結局は歴史に学ぶしかないでしょう。
ただし中途半端に学べば,先の例のような自分にとって都合のよい解釈しかできなくなってしまいます。
そのためにはどうやって学んでいけばよいのでしょうか。
本書では
歴史を見る際に,右や左に偏った一方的な見方をしてはだめ
重要な決定を下す際に,結果的に正しい決定を下せる可能性が高い人というのは,広い範囲の過去の出来事が,真実に近い解釈に関連づけられて,より多く頭に入っている人
と書かれています。
「右も左もなく客観的な解釈を試みつつ,より多く勉強を積みなさい」ということですよね。
そしてこれらは市井の私たちにも言えることでしょう。
だって学んでないと,ある政策が間違いなのかどうか理解できない,若しくは短絡的な視点からしか理解できないことになってしまいますからね。
ですから指導者だけが学べばよいというものではありません。
そして議論すること
また,議論の場という点では昨今はSNSなどの力で,より多くの議論の場が作られています。
しかし感情的になりお互いを罵り合うことが多いのも事実。
もっと成熟した論理的な話し合いができるようになるのではないかと期待しています。
そうすれば日本もまた変わってくるのかなと感じました。
本書はそんなことを考えることができる良書です。
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