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「満月エンドロール」~わずか数秒の走馬灯を描ききった名作

(ネタバレあり注意)

広島出身の方ということもあり,私は野村宗弘さんの作品が好きで,その中でも「満月エンドロール」が一番好きです。

 

この作品は50半ばの人生にくたびれきった警備員のおじさんが,死ぬ直前の数秒間に見た走馬灯の様子を描いたものです。

 

走馬灯の中で彼は30年前に死別した妻と出会います。

※本書から引用,以下についても同じ

 

そして彼女とともに自分の人生を振り返っていきます。

振り返るできごとの中には懐かしいものもあれば,二度と見たくなかったようなものもありますが,二人で一緒に振り返っていくことで,当時は消化しきれなかったけれど,ようやく消化できるようになったものもあります。

 

妻は30年前に殺されました。

そのため,彼はやるせない思いを抱えたまま,半ば捨て鉢になって残りの人生を生きていきます。

くたびれきった状態になるのも無理はないでしょう。

彼が望んでいたことは彼女と一緒にいること。

そのため,再婚もせず一人で生きています。

そういった様は,一見しただけではとても寂しいおっさんの話にしか見えないでしょう。

しかし,そうは見せないところがこのマンガの真骨頂です。

 

図らずも死の直前になって,彼の妻と一緒にいたいという願いが走馬灯の中で叶うこととなります。

しかし,彼は冷静で走馬灯はあくまで走馬灯,夢のようなもので自分の想像でしかないのではないかと疑念を持ちます。

30年ぶりに再会した妻も,本当の妻ではないのではないかと考え,喜びきれない部分が残ります。

しかし,最後にようやく妻が本当の彼女であることを確信し,同時に自分の願いが叶ったことを知るのです。

 

彼が送ってきた人生の外側だけを見ると,妻を殺され残った人生を寂しく過ごし最後は山の中で倒れて死ぬという,本当に救いようのない話のように思えます。

しかし,この本を読み終わった後に感じるのはなんともいえない心地よさです。

彼は救われた,最後の最後には報われたのだと確信できます。

 

その心地よさは実際読んでみないとわからないと思うので,ぜひ読んでみてください。

超オススメです。

 

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