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戦争の中毒性をあぶりだした映画~アメリカン・スナイパー

イラク戦争で実際に活躍したクリス・カイルという米海軍特殊部隊SEALsの狙撃手に焦点を当てた作品です。

同氏はイラク戦争に4度従軍し,公式戦果で160人を殺害しており,米国内では英雄と称されている人物です。
たった一人で敵対勢力を160人(非公式では250人以上とも)排除しているのですからそりゃあ英雄でしょう。

ただし,この映画で描かれているのは単なる英雄の賛美ではありません。
かといって戦争批判でもありません。

私が思うに,この映画は戦争を通じて一人の人間の心が破壊されていくさまを描写した映画ではないでしょうか。

卓越した才能

主人公カイルは元々カウボーイでしたが,アメリカへのテロ攻撃が相次ぐ情勢に憤りを覚え,軍へ志願します。
そして卓越した狙撃能力を開花させ特殊部隊の狙撃手として活躍することになります。

ただし,その道のりは一発目から困難なものでした。
最初に狙撃しなければならない相手が女性と子どもだったからです。
彼らは明らかに米軍へ攻撃する意図を持っていましたから,女子どもであっても狙撃されるのは仕方ありません。
しかしカイルの心の中には言いようのない後味の悪さが残ります。

そしてその違和感は,その後彼が「英雄」として軍内でもてはやされていくと共に,より大きなものへと成長していきます。

むしばまれていく心

カイルが実戦を経験するたびに,彼の心はどんどんむしばまれていきます。
年にそぐわない高血圧,突然のフラッシュバック・・・
特に自分が狙撃した子どもや敵対勢力に処刑された子ども,戦友の戦死がカイルに与えたトラウマは大きなものです。

そして,4度目の従軍中に「もう嫌だ,家に帰りたい」と妻へ吐露し,軍を辞める決断をします。
除隊後,カイルは幸せな人生を送っていたかに見えるのですが,そうは見えません。
一見幸せそうに見えるカイルですが,何か失ったものを探すかのような生活を続けます。

そして,最後は自分と同じ退役軍人に殺されてしまいます。

なぜ何度もイラクを求めるのか

カイルの妻は夫の度重なる従軍に反対しています。
彼自身も心がどんどん病んでいっているのに,それを否定するように自身を奮い立たせて何度もイラクへ赴きます。

彼が言うにはそれは「祖国を守るため」「倒された友の復讐のため」とありますが,真意は違うのではないでしょうか。
私は,彼は純粋に戦場へ戻りたかったのではないかと思います。

心はむしばまれ,表面上は戦場を嫌いつつも,心の奥底では戦場を求めていたのではないかと。
語弊があるかもしれませんが彼にとっての戦場とは,ハンティングのような原始的な狩猟本能を呼び覚ましてくれる存在だったのではないでしょうか。

「ハート・ロッカー」など他の作品でも描かれていますが,戦場に適応してしまった人間は戦場を嫌いながらも結局は戦場を選んでしまうものなのだそうです。覚醒剤のように。

やめよう,やめなければいけない,行ったら行ったで絶対後悔する,でもやめられない,そういう心境なのではないでしょうか。

そういう意味で彼が殺されたことは,彼自身にとっては幸せだったのかもしれません。
そのまま生き続けていれば,彼の精神は日常生活との間ではバランスが取れず,崩壊していたのではないでしょうか。

クリント・イーストウッド監督がわざわざカイルの除隊後の生活を結構な時間をかけて作品中に盛り込んだのはそういう心の葛藤を描きたかったのではないでしょうか。

まとめ

この映画を見て,私は戦争を賛美するつもりはありませんし,忌避するつもりもありません。

人間である以上,戦争をなくすことは不可能でしょう。
そして,戦争がある以上,カイルのような「英雄」は存在します。

しかしそのような「英雄」でも,実際は一人の人間であり,その心はズタズタに引き裂かれているのだということも事実なのでしょう。

この映画を見て,改めて戦争とはそういう残酷なものだよという事実を突きつけられました。

VODなどでは↓この辺で見られます。

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