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「特攻の島」~何のために生きるのか?人の命とはなにか?さまざまなことを考えることができる良書

日本というのは特攻という自爆攻撃を組織として運用した恐るべき国です。
イスラム原理主義者など小規模な自爆攻撃というのは聞きますが,国家単位で自爆作戦を行ったのは日本のほかにあるのでしょうか。
組織的な命令に基づいて自爆攻撃をするなんて,本当に恥ずべきことだと思います。

その中でも回天とは,旧日本海軍の愚の結晶ともいうべき特攻専用の兵器です。
魚雷に人間を乗せてみようという小学生なみの発想で生み出された兵器。
潜望鏡が出せないと現在地も確認できない乗り物なんて乗り物ではありません。
こんなものに乗せられて命を落としていった人がいるのかと思うと本当に気の毒に思います。

このように特攻作戦という作戦については狂気の沙汰で酌むべき点はなにもありませんが,その一方で散っていった一人一人の行動というのはとても尊いもので,将来に語り継いでいくべきものです。
この本はそんな回天搭乗員について描かれた作品です。

主人公の渡辺は当時の貧しい日本人の一人,逼迫する戦況になんとかしなければという思いはあります。
これはその当時の日本人の多くが抱いていた気持ちだと考えられます。
彼は流れに乗るまま回天の搭乗員になります。
そして現実を目の当たりにして,このような粗末な兵器に乗って死ななければならないことに大きな葛藤が生じます。
彼は苦しみますが,家族や仲間のためとなんとか自分を納得させ出撃します。

しかし,一度目の出撃はまさかの失敗。
死ぬつもりでいたのに生き永らえてしまった渡辺は苦しみます。
自分自身のそれだけではなく,周りからのいわれのない嫌がらせにも苦しめられます。
死ぬ覚悟ができている人間にもう一度生きろというのは,普通の人間に死ねと言っているのと同等なものなのかもしれません。
1回目の出撃までの過程よりも,その作戦が失敗してからの方が,彼の苦しみは深いように感じます。
そんな彼にもついに二度目の出撃が命じられ・・・

死の直前の彼の心境はどのようなものだったのでしょうか。
彼は言います。
「私たちに選択の余地はない。」「自分の心にしか自由はない。」と。
そして彼は「自分の人生を自分のためにするために死ぬ。」と言います。
それは一体どういうことなのでしょうか。

彼は先に死んだ特攻隊員に「お前は生きろ」と言われ続けてきました。
渡辺は特攻隊員になるまで,なぜ生きているのか分からないような生き方を送ってきました。
しかし,回天搭乗員になってからは生と死という問題について考え続けます。

この本の1巻から9巻までの表紙は,彼の自画像です。
時間の経過や成長と共に自画像も変化していくのが分かります。
渡辺の心の内はこの自画像と共にあるように思えます。
そう考えて最終巻の表紙を見ると,彼は悟りの境地へとたどり着いたのではないかと思えます。

しかし,その一方で最終巻を読むと

この怨念のような言葉。
悟りの心境とは違うと思います。
私はこの点については読解できませんでした。

モヤモヤは残りましたが,この作品はいろいろなことを考えさせてくれる非常によい作品でした。

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