戦争というのは,さまざまな意味で現代に生きる我々の教材です。
正に極限状態に追いやられていますから,本能的な部分や汚い部分,中には美しい部分が出てきます。
それらを知り,改善すべきところは改善しなければなりませんし,素晴らしい部分は受け継いでいかなければなりません。
そのためには,まず事実を認識することが大切なのではないでしょうか。
その点で,旧軍の兵士像というのは正しい認識がなされているかといえばどうでしょう。
思い込みによる偏見があるのは否定できないのではないでしょうか。
日本兵と聞いてイメージすること
私の場合,日本兵と言われてイメージするのは
- 個人個人は勇敢だった
- 特に下士官が優秀だったが将校はポンコツ
- 当時の空気が仕方ない面はあるにせよ降伏より自決を選んだ
- 白兵戦には強い
などといったものです。
しかし,今回取り上げる
日本軍と日本兵 米軍報告書は語る
を読むと,必ずしもそうではなかったことが浮かび上がってきます。
この本の基底となっている米軍報告書というのは,米軍が前線からの報告や各戦場での戦訓をまとめて日本軍を分析したものです。
敵国側の資料ということで日本側を過小評価したりする面もあるとは思いますが,ある程度は客観的なものが得られるのではないでしょうか。
やっぱりそうだったんだなーと思ったこと
精神主義があらゆるレベルにはびこっていた
精神主義を偏重することについては今も昔もあまり変わってないですね。
すこしずつ良くはなっているのでしょうが,昨今の労働環境などを見ているとたいした変化がないように感じます。
死者には丁重だが傷病者には冷たい,戦死が目的化している
戦死が目的化していることについては先日「総員玉砕せよ!」の書評に書いたとおりで,戦争が進むにつれて,戦争で勝つことよりいかに死ぬかの方が大切になっています。
まさに日本的組織でよく起こる手段の目的化。
また,死者に対しては丁重な葬儀を行ったり,命がけで遺体を回収するなどしていた一方(劣勢になってからはそんなこともできなくなりますが),傷病者に対しては怠け者呼ばわりしたり,自決を強いたりひどい扱い。
捕虜になることをよしとしない風潮もこの延長線上にあるのではないかと。
こういった弱者に対する扱いが非常に厳しい点も,今も改善されていないのではないでしょうか。
意外だったこと
将校がいないと混乱するなどいったん混乱したり負け戦になるとパニックに陥る
日本兵は個々が落ち着いており粘り強いというイメージがあったのですがそうではないようで。
意外とパニックに陥ることは多かったようです。
また,日本軍の将校はポンコツが多く,偉そうにするだけで役に立っていないというイメージもありましたが,これも違うみたいで将校が戦死すると集団的な戦闘ができなくなっていたようですね。
意外と普通の軍隊だったんだなと。
格闘戦,射撃が下手
これも意外でした。
日本兵は抜刀しての夜襲が得意だったとか白兵戦に強いイメージがあったのですが,実際はそうではなかったのだとか。
夜襲が得意だったのは事実でしたが,実際は軽機関銃を主体とした割と合理的な襲撃をしていたようです。
確かに今でも欧米人を見ると体格差を感じるのに,当時であればさらにその差を感じることでしょうから,戦意を喪失しても仕方ないのかなという気はします。
射撃が下手なのは,警察官とか見ていてああそうだろうなと個人的に思います。
その他印象に残ったこと
出身地による違い
- 同じ日本兵でも都会出身と田舎出身では全く異なる人種と言ってもよい,都会出身の兵士は欧米的なものへの親和性が高い
- 田舎出身の兵士には戦死して靖国神社に祭られることを尊んでいる者もいたが,都会出身の兵士にはそういう者が少なかった
などと言ったように出身地によって考え方は全く違っていたようです。
今まで私には「日本兵」という画一的なイメージしかなく,そういう視点はありませんでしたから目からウロコです。
一方で,
- 都会と田舎に共通するのは降伏したり捕虜になれば祖国に帰れないと思っている
- その理由は生まれ故郷,つまり自分や家族が被るであろう社会的迫害が足かせになっているということ,米軍の虐待を恐れてのことではない
ということで,やはり日本独特のムラ社会,恥文化の恐ろしさがここでも威力を発揮しているのだなと感じます。
点呼時の訓練
点呼時に奇妙な訓練をする,目を閉じて拳を握りしめて振り上げ「チクショー」と叫ぶ,続いて上級将校が「ヤルゾー」と叫び部下が「ヤリマス!」と叫ぶ,最後に将校が袈裟切りをして「センニンキリ!」と叫ぶ
まことに奇妙なことをすると書かれています。
でも今も朝礼とか点呼とかって似たようなことしてますよね。
安全運転の唱和とか。
こんなことしてどうなるんだろう,といつも思ってましたが,70年以上も前から続いているんですね・・・
こういうのホント意味ないからやめましょうよ。
LとR
LとRの発音の区別ができないのは当時でも有名で,合言葉にはLとRを入れて,うまく言えなかったら撃てと。
発音大事です。
本書を読んで感じたこと
本書を読む前に自分がイメージとして持っていた
- 個人個人は勇敢だった
- 白兵戦には強い
と自分が理解している日本人というのが,どうもうまくリンクしないと思っていました。
私たちみんながそんなマッチョで勇敢な人たちの子孫だとは思えないんですよね。
でも本書を読むことでそれらがうまく重なりました。
実際の日本兵は
格闘戦や射撃は苦手で,特別勇敢なわけでもなく,普通に命が大切で,時にはパニックも起こし,でも恥の文化や組織の体面のため多くの人が戦死していった
というもので,今の日本人と多くの部分が重なります。
その上で,
精神主義,手段の目的化,過剰な恥文化
などは戦争が終わってもいまだに現在まで脈々と続いているガンだということが改めて分かりましたから,改善していかなくてはならないと改めて感じました。
日本人を知るためにはまず身近で極端な例から学ぶのがいいですよ。
コメント
私の日本兵のイメージは、個人個人のガタイや、意思決定能力が著しく低い。集団での突撃には従順に従う。
粗食に良く耐える。
投降をしたがらないのは、郷里の家族のことを思えば当然かと。ソ連でもそうでしたし。