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「死刑囚の母に問う~和歌山毒物カレー事件20年~」を見た~未だに根強く求められる連帯責任に辟易

7月に録画して見ていなかったNHKのドキュメンタリー番組「死刑囚の母に問う~和歌山毒物カレー事件20年~」を見ました。

これは1998年に和歌山で発生した無差別殺傷事件で死刑が確定した女性死刑囚の長男を取材した番組です。

なぜ加害者の家族が犯罪者のように暮らさないといけないのか

加害者の家族に焦点を当てた番組というのはなかなかなく,とても興味深い内容でした。

一番印象に残ったことは,事件とは何の関係もない長男氏がまるで犯罪者のようにひっそりと隠れるようにして暮らさないといけないというこの時代錯誤感です。

特にこの方は事件当時小学生です。

ある日近所で無差別殺傷事件が発生して,しばらくしたら母親がその犯人だとして捕まってついでに父親も捕まって,両親がいなくなって自分を含めた子どもたちは児童相談所に保護されて家族バラバラ。

その後は陰湿なイジメを受け続け,成人後も,とある人と婚約までいくものの母親が死刑囚だと分かって破談。

長男氏は死刑囚と顔が似ているということで,現在も伊達メガネで容貌を隠すようにして暮らしています。

関係のない人をここまで追い込んでいい理由がどこかにあるんですかね。

なんで21世紀も20年近く過ぎようとしているこの世の中で江戸時代のような連座が地味に生きているのか不思議になります。

報道なんかでも未だに被疑者の家族とかにインタビューとかもしてるし。

「○○がこのようなことをして申し訳ない」って,被疑者が子供ならまだ仕方ない部分があるかもしれないですが,いい大人がやったことに対してその家族に何を求めているのでしょうか。

知ったこっちゃないですよね。

でも「知らんがな」っていったらなぜか非難されるという。

長男氏の心境変化に対する描写が秀逸

この長男氏が実に出来た人というか,おそらく世間的な目というのを子供のころから強烈に意識せざるを得ない生活を送ってきているからではないかと思うのですが,取材に対しても世間的に差し障りのない発言をするように気をつけている,というか自分の本心を自分の奥底に閉じ込めておこうという意識を強く感じました。

それが作中で少し変わってきます。

それは死刑囚が一貫して主張している「やってない」ということを信じることです。

私は事件記録を読んだわけではありませんが,警察官やってましたからやはり警察の捜査というのを信じたいです。

自供なしで有罪まで持ち込んだ莫大な捜査には圧倒されます。

でもそれはそれとして被疑者の家族は被疑者のことを信じてあげればよいと思います。

死刑囚といえども家族です。母親です。

心から信じてあげられるのは家族くらいしかいないじゃないですか。

しかし作中で長男氏はそのことについてかなりのためらいがうかがえます。

「信じてあげたいけど・・・世間的には許されない」といった趣旨のことを何度か繰り返しています。

この辺からも氏が世間から受けたダメージがいかに大きいかが推察されます。

でも最後に氏は,正面からそのことについて母親と話したことで,「彼女を信じる」と言い切りました。

すごいと思いました。

まとめ

こういう心境の動きを描けたこの番組もまたすごいです。

久々に地味に力のある番組を見ました。

見たことない人は見た方がいいです。

が,今のところ再放送予定はないみたいですし,NHKオンデマンドでも配信されていません。

こういう番組こそ繰り返し放送されるべきだと思います。



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