「サイバー警察に家宅捜索を受けた際の体験談」を読んで思ったこと~確かに警察は遅れてるけどちょっと誤解が多すぎるような気が

捜査系の話

先日ニュースを読んでいると,このような記事が。

 

警察に対してさまざまな意見が書かれていました。

「警察は15年遅れている」→おっしゃるとおりでありますというのが第一の感想です。

 

しかし,捜査員をやっていた身として読むと,ちょっとバカにされすぎで多少腹も立ちましたし,誤解されていると思われる部分もあります。

いろいろと思うことはあるのですが,絞って数点書いてみたいと思います。

強制捜査(捜索)について

上述した通り、私やレンタルサーバー会社の認識で甘かった最大の点としては、「警察がまさかここまでの杜撰な捜査をするとは思っていなかった」事であり、ITに関連する捜査能力が異常なまでに欠如しているという点に他ならなかった。また、任意ならともかく、司法権に基づき人権侵害(つまり日本国憲法35条に定められた「住居の不可侵」)を犯しても合法となることを担保するために裁判所により発行される家宅捜索令状が、このような根拠の薄弱な状態でも発行されるということは思いもよらなかった。(後に調べたら裁判所は、令状の自動販売機だということは理解した。)

捜索差押検証令状っていうのは簡単にって言ったらおかしいですが,逮捕状と比べるとかなりゆるいです。

刑事訴訟法に書いてあるのですが,逮捕状は「相当な理由」が必要なのですがガサは「必要があるときは」なので疎明資料もある程度あれば出ます。

 

捜索は逮捕と同時にやるイメージも強く,捜索&逮捕と同等に考えている方も多いかもしれませんが,捜索先行で証拠を集めてじっくり解析して,やっと逮捕に至るケースもあります。

複雑な事件ほどそうで,知能系とかサイバー系とかはそういうことが多いです。

 

昨今はログファイルの提出も任意で応じてくれないところがある現状です。

そうすると仕方がないので強制でやるしかないのですが,その令状の出る要件が今より厳しくなってしまうと多分全然捜査ができないと思います。

任意で応じてくれれば別に強制じゃなくていいんですけどね。

あ,でもこのケースは家なので,任意の家宅捜索はできませんから,強制でせざるを得ないです。

サイバー犯罪の基本捜査について(あえてやらないこともあります)

また、今回の事件について詳細を知った上で、仮に私がこの事件を主導する立場の捜査官または関係者であったとすれば、次のような手順をとるだろう。

レンタルサーバー会社から提供されたログファイルに記録された全てのIPアドレスやその他の記録を総合的に一通り調べ、私のIPが犯人のものであるか当たりをつけた時点で、「このIPアドレスが間違いなく犯人のものであるかどうかを裏付ける目的」と、「他にこの犯人による余罪がないか確認すること」を目的として、もう一度レンタルサーバー会社に宛てて「このIPアドレスに関して、他のアカウント等でもアクセスしたログがないかどうかを確認して欲しい。」という情報照会を行うはずだ。そして、レンタルサーバー会社の調査の結果、同一IPでさらなるフィッシングサイトの制作が確認出来た場合は、当然レンタルサーバー会社は警察に連絡した上で、このサイトを凍結するだろう。この捜査手順が、犯人の犯行をすべて明らかにすることに繋がるはずだし、私が警察が本当に守らないければならないと考える「被害者の実害や、この後発生する可能性のある潜在的な被害者」を減らすことに繋がるはずである。

少なくとも、私の経歴や車の所有記録(しかも調べて間違っている)を調べる前に、もっといえば、人権侵害を合法化し、私の認識では空振りは容易に容認されない強制捜査の前には、このような裏付け必ずとることが捜査機関の当然あるべき姿なのではないか。(それに余罪については、犯人を捕まえてから自白でもさせるつもりなのかもしれないなと思った。)

さすがに15年遅れの警察といえどもこれらで指摘された捜査は普通してます。

私は専門捜査員ではなく署の一介の捜査員としてサイバー犯罪捜査に関わったことがありますが,そんな私でも当然やっていた捜査で,基本の「き」です。

 

この事例の場合,なんでその基本の捜査をしてないのか状況の詳細が分からないのでなんとも言えません。

ポカの可能性もないこともないですが,令状請求の段階でおかしいことに気付くはず。

 

あと容疑者の家とか経歴とか所有している車を調べるのも基本の「き」なので,捜査線上に浮上した場合はほぼやります。

とりあえず調べられることは全部調べるんです。

そういう基礎捜査で何らかの糸口が見つかることはけっこうあるので。

 

で,なんでその基本的な捜査をやっていないかですが,一つ考えられるのはレンタルサーバー会社に照会することで被疑者側に情報が抜けるのを心配したかもしれません。

内部犯または知り合いの可能性を当然考えているので。

この文章だけを読むとそうなのかなと私は感じました。

 

そういう場合だとそれ以上捜査が進まないので,捜査を進展させるためにとりあえずガサしようか,もしそこで被疑者が自供しちゃえば一気にカタがついてラッキーっていうのはありえます。

先ほども捜索令状の軽さについて書きましたが,とりあえずガサしてみよっかーっていうそれくらいの感覚です。

税金の無駄・・・って言われると捜査なんかできなくなります

それに、警察組織は、上記で述べたように私を犯人と疑い(おそらく最初の高圧的な雰囲気からして、完全に黒だと思っていたと思う。というか黒だと思わないなら令状は出ませんよね。)、過去の経歴を調べ、車の所有状況(なぜか間違っている)を調べ、捜査員4人を愛知県内に前泊させて(前泊したことは捜査員から雑談の際に聞いた)、結果としてこれら4人に6時間に渡りサーバー管理者側の家を家宅捜査させるなど、全くもって税金の非効率な浪費、無駄以外の何物でもないと考えている。(一体いくらかかったのか。。。)

前段でお話ししたような状況であれば捜索をかけるのは致し方ないかと。

税金の無駄遣いと言われれば身も蓋もありませんが,捜査ってそういうものじゃないんでしょうか?

やってみないとわからないことが多いので,実際やってみて空振りはしょっちゅうです。

 

税金の無駄遣いといえばちょっと話はずれますが,先ほど話したログファイルにしても,任意で応じてくれないときには令状で差し押さえなければいけません。

差押えを郵送でやるわけにはいかないので,たかがログファイルをもらってくる(差し押さえる)ために捜査員をその会社まで行かせないといけません。

地方から東京の間で,これを何回も繰り返しているとそれこそ税金の無駄だなと感じていました。

任意で対応してくれれば郵送ですむんですけどね・・・

IT企業はこういうシャチホコばった対応を取るところがけっこうあって印象悪かったです。

 

あと警察は基本的に人を疑っています。

そういう仕事なのだから仕方ないです。

当然ガサに行くときも「犯人だと思う」から行くんです。

高圧的にするのもテクといえばテクです。

それで自供しちゃう人もけっこういますからね・・・

ですからそれで気分を悪くされたのならごめんなさい,このたびは気の毒でしたとしかいいようがありません。

人材育成・・・なかなか難しい

また、同時に捜査員個人に対しては、埼玉から遠路はるばる愛知まできて、朝早く強制捜査したら空振りの捜査をさせて、ご苦労かけて申し訳なく、お疲れ様ですとも思った。私自身この捜査員の4人の方には、個人的な責めを負う必要などないと思っている。それに、私が求めるのは警察からの「今回の捜査は不適切な行為だったのでお詫びします」とかいう形式的な謝罪でもない。(ちなみに私の記憶では、本件に関して、レンタルサーバー会社には謝罪があったと社長さんから伺ったが、私には捜査当日も含めて一言も謝罪された記憶はない。) そういうことではなく、本当に取り組むべきは、サイバー警察は捜査機関として当然持つべきレベルのITスキルの確保と、このITスキルを含めた合理性のある裏付け捜査。国民の基本的人権を軽視しない捜査手法。これらを本当の意味で改善していく具体的な取り組みを行い、結果として「国民の税金を無駄なく運用し、基本的人権を尊重しながら犯罪を未然に防止した上で、国民生活を守って頂きたい。」という思いだけである。

警察は役所なので,定期的に人事異動があります。

癒着とかがあるといけないので定期的にシャッフルしているのだと聞いたことがありますがそうかもしれません。

そんなですからずっとサイバーだけやってる警察官はなかなかいません。

本部内で動いたり,署に出て生安やったり刑事やったり交番やったりとあちこち動きます。

 

で,仕事のメインはサイバーよりも取扱いの多い一般犯罪なので,そちらにまず順応しないといけません。

そもそも警察官はそんなにレベルが高い人がなる仕事じゃないので,すべてに対応できるスーパーな警察官はなかなかいません。

職務質問したり,現場で立件できるかどうかを考えたり,調書書いたり捜査書類つくったりの方が一般警察官としては重要で,そこを一人前になるまでけっこうな月日が必要です。

なのでどうしてもサイバーは後手後手に回ってしまいがちです。

 

しかし,サイバー的な知識の必要性は年々比重を増しているので,なんとかしないといけないとは感じます。

しかし具体的にどうしたらいいのか?と言われると思いつかないんですよね。

初任科教養なんかでできることじゃないし,専科教養するにしても時間が足りないし。

結局個人個人が勉強するしかないのかなあと考えてしまいます。

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